上昇病院

「上昇病院シリーズ」の第2弾として紹介するのは、国際医療福祉大学病院における地域医療連携室の取り組み事例です。
国際医療福祉大学病院では、3年連続で紹介数が1,000件以上増加しており、2014年度の実績では、患者増加数・手術増加数・救急搬送増加数・紹介増加数など、多くの指標で医療圏No.1の実績を収めています。(厚生労働省公開データにより算出)
今回は、病院の副院長でもある地域連携室部長の柴信行先生、室長代理の吉成和子様を訪ね、業績改善の秘訣についてお伺いしてきました。

-国際医療福祉大学病院の概要について教えてください。

柴氏)当院は1998年に、栃木県の県北医療圏において、100床で本開設した病院です。開設当初は、地域の医療ニーズに対して供給が不足している状況にあったため、重症な患者様がくると他の医療圏にある大規模病院に紹介することが主流になっていました。こういった課題の解決に向け、診療レベルの向上や増床に取り組んできた結果、2012年4月からは353床での運営を行っており、幅広い領域での地域完結型医療の実現に向けて努力しています。

-地域の特性について教えてください。

柴氏)当院を利用する患者様の多くは、当院の所在地である那須塩原市と、近隣の那須町、大田原市から訪れます。これら市町はとても広域に渡っているため、全国平均よりも高齢化が進んでいる地域もあれば、工場誘致のため若者が多い地域もあります。人口規模でいうと22万人程度ですが、多様な医療ニーズが散在しているという特徴があります。

地域の基幹病院として高度で質の高い医療を提供
-地域内における貴院の役割について教えてください。

柴氏)地域完結型医療の実現に向けて、高度で質の高い医療を提供する役割を担っています。当院では、最新の医療機器を備えつつ、大学病院の教授を退いた先生や、准教授クラスの先生、高度な専門性を持ったスタッフが在籍しているため、都市部の大学病院にも引けを取らないレベルの医療を提供しています。

-質の高いスタッフを集める方法について教えてください。

柴氏)当院の母体である国際医療福祉大学・高邦会グループは、国際医療福祉大学を中心に様々な教育機関・医療福祉施設を有しています。グループ内には様々な臨床教育体制があり、人材交流も活発に行っているため、そういったネットワークは上手く活用しています。一方で、環境が整っていれば人材が集まるというわけではありませんので、現場レベルでの情報収集や、当院の良さを知ってもらうための活動も積極的に行っています。

相手の目線に立った取り組みで安心感を与える
-地域医療連携室の業務内容について教えてください。

吉成氏)地域医療連携室の業務は、前方と後方に分かれています。前方連携では、病診連携や病病連携に関わる業務を行っており、地域の先生方が安心して患者様を任せられる体制作りを行っております。後方支援では、ワーカーが中心となり、患者様が安心して退院できる環境を整えています。

-地域連携を強化するために行っている取り組みについて教えてください。

吉成氏)前方の部分については、地域の先生から患者様の紹介を受けた際に、必ず報告書をお送りするようにしています。このような取り組みは長期に渡って行っていますので、徐々にではありますが信頼関係を築くことができています。後方の部分では、形式的な退院調整だけでなく、患者様のお悩み相談などにも耳を傾けています。全ての悩みを解決できる訳ではありませんが、しっかりと向き合うことを心掛けています。

要望に素早く対応することで信頼関係を構築
-業務の中で意識していることについて教えてください。

吉成氏)先生方や患者様の声にはしっかりと耳を傾けるようにしています。地域医療連携室では、「かけはし」という広報誌を発行しており、その中には地域の先生方へインタビューを行った記事を掲載しています。こういった取り組みを行うと、普段は聞けない率直な意見をお伺いすることができるので、とても参考になります。

-率直な意見というと、耳が痛くなるような指摘もあるかと思いますが…

吉成氏)大事なのは、そういった意見をしっかりと受け止め、改善していくことだと思います。言っても意味がないとならないように、ご指摘頂いた内容は全て共有し、どうすれば解決できるかを話し合うようにしています。例えば、以前インタビューに伺った病院では、病診連携室の受付時間を延長して欲しいというご要望を頂きました。その際は、すぐに延長できる体制を整え、対応させて頂きました。

地域全体を主体にした連携活動を推進
-柴先生が地域医療連携室に携わることになったきっかけを教えてください。

柴氏)私が当院にきてからまず始めたのは、地域における講演会でした。地域医療を良くしていくためには、地域の住民や先生方のことを理解しなければいけませんし、当院のことを知ってもらわなければなりません。教育・啓発・普及活動を通して、地域との相互理解を深めようとする取り組みが、地域医療連携室に任命されるきっかけになったと考えています。

-教育・啓発・普及活動としてどのようなことを行っているのかを教えてください。

柴氏)地域連携というと、医療機関との連携を思い浮かべる方が多いと思いますが、私はこの地域全体との連携だと思っています。地域医療の中心にいるのは住民の方々なので、そういった方でも気軽に参加できるような内容を心掛けています。具体的には、毎月300名程度の方に参加頂いている健康教室や、中高生を対象にしたキッズセミナー、医療機器を使いながらの体験セミナーなどを実施しています。また、新しい取り組みとして、2年前から健康フェアというものを行っています。これは、当院のスタッフと地域住民が共に楽しめる健康のお祭りとして企画したもので、年に1度開催しています。3回目を迎えた今年は、かかりつけ医をテーマに実施しました。

信頼関係構築の秘訣は「顔の見える連携」
-医療機関との連携を強化するための取り組みについても教えてください。

柴氏)地域の先生方と一緒に勉強する機会をほぼ毎月1回作っています。取り組みを始めた当初は私の専門領域である循環器疾患がメインだったのですが、現在では様々な領域の疾患を取り上げています。勉強会の講師は当院の医師が行っているため、取り組みをしていく中で当院を信頼してくださる先生方が増えてきています。

-継続的に紹介数が伸びている秘訣について教えてください。

柴氏)長い間に渡り、顔の見える連携してきたことが評価されているのではないかと思います。地域との距離が近くなると、当院に対する率直なご意見を頂くことができます。時には厳しいご指摘もありますが、そういった意見を頂ける関係性を築けていることに満足しています。これまで、24時間ホットラインの運用や救急患者の受入強化など、地域の声によって実現できた取り組みがいくつもあります。今後も様々な声に耳を傾けながら、より良い地域医療を地域の皆さんと一緒に作っていきたいと考えています。

地域医療福祉ネットワークで更なる連携強化を
-今後取り組んでいきたいことについて教えてください。

柴氏)今年の4月から、かかりつけ医を中心とした「国際医療福祉大学病院地域医療福祉ネットワーク」を発足しました。このネットワークを通して、地域の医療福祉施設と、より深いお付き合いをしてきたいと考えています。既に、病診連携ツールの開発や、かかりつけ連携手帳の利用、突然死撲滅キャンペーンなど、様々な計画を立てています。このネットワークを有意義なものにしていく活動を、新たな取り組みとして実施していきたいと考えています。

新しい医療教育を共に創り上げていける人材を
募集中
-その他で何か発信したい情報がありましたらお願いします。

柴氏)現在、国際医療福祉大学に医学部を新設する計画が進んでいます。それに伴い、当院でも多数の実習生を受け入れる準備を進めています。既に臨床棟や研究棟、宿泊施設等の建設を企画しており、将来的には当院は教育総合病院の性格を持つようになると思います。これらの取り組みを有意義なものにしていくためには、臨床教育・研究のリソースを充分に確保する必要があります。こういったことに関心のある若い先生がいらっしゃいましたら、是非私たちと一緒に新しい医学教育を創りませんかとお伝えしたいです。

-高齢化の進む地域の医療に、将来必要となるものは何でしょうか。

柴氏)時間の経過と共に、これまでの医学教育だけでは対応できない領域が増えているように感じます。具体的な一例を挙げると、急速な高齢化が進む日本において、地域連携や多職種連携といった領域の教育は未だに確立されていないのが現状です。当院では、そういった領域についてもしっかりとした教育体制を整えていきたいと考えています。このような壮大な試みに、一緒にチャレンジして頂ける方がいらっしゃいましたら、是非ご参加頂きたいです。

-本日は貴重なお話をありがとうございました。

病院概要

【施設名】
国際医療福祉大学病院
【所在地】
栃木県那須塩原市井口537-3
【URL】
http://hospital.iuhw.ac.jp/

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