上昇病院

「上昇病院シリーズ」の第3弾として紹介するのは、佐賀県医療センター好生館における地域医療連携センターの取り組み事例です。
佐賀県医療センター好生館では、3年連続で患者数・手術数・紹介患者数が増加しており、2014年度の診療実績では、患者数・手術数・紹介数など、多くの指標において、増加数・増加率共に医療圏No.1の実績を収めています。(厚生労働省公開データにより算出)
今回は、好生館の副館長である佐藤清治先生、地域医療連携センター長の田中聡也先生、同副センター長副看護師長の園田美佐枝様、同係長の今池彰様、医療情報部係長の長友篤志様を訪ね、人気の秘訣についてお伺いしてきました。

180年以上の歴史を持つ日本有数の病院
-佐賀県医療センター好生館について教えてください。

今池氏)当館は、1834年に第10代佐賀藩主鍋島直正公により創設された、医学館・医学寮を起源とする病院です。創設時に直正公が書いた扁額に「好生館」と記されていたことから、現在はこれが当館の名称になっています。好生館の由来となったのは、中国の「書経」の一節“好生の徳は万人にあまねし(人の生命を大切にする徳を万人にゆきわたらせる)”という言葉です。最新の医療を必要な人すべてに提供していくというこの理念は、180年以上に渡る当館の歴史において途切れることなく、現在も受け継がれています。

-好生館の歴史について教えてください。

今池氏)佐賀藩の儒学者であった古賀穀堂が著した「学政管見」(1806年)に、“学問なくして名医になるは覚束なきことなり”という言葉があります。これは、文字通り医学教育の必要性を訴えたものです。その後、当時の佐賀藩は、世襲が一般的であった医師養成手法を改め、医学寮に入学し、試験に合格しなければ免許を与えないという制度を取り入れました。この制度は、日本で最初の医師免許試験制度と言われています。また、長崎の出島で貿易が行われていた1849年には、佐賀藩の医師であった楢林宗健が、オランダ商館医オットー・モーニッケを通じて入手した牛痘痂を利用し、天然痘のワクチン接種に成功しました。それ以降、ワクチンは江戸、大坂などへも伝わり、天然痘の抑制に繋がったとされています。

高度急性期機能をもつ病院としてチーム医療を推進
-近年の好生館についてお聞かせください。

今池氏)1896年の11月に「佐賀県立病院好生館」として設立した後、2010年から地方独立行政法人に移行しました。その後、2013年の5月に佐賀市嘉瀬町に病院を新築移転し、「佐賀県医療センター好生館」として生まれ変わりました。現在は、35診療科、450床の病院として、外科・内科系の枠を超えた9つの臓器別・疾患別のセンター化を進めており、チーム医療の推進に取り組んでいます。

-地域の特性や貴院の立ち位置についてお聞かせください。

今池氏)現在は、佐賀県全体で高齢化が進行している状況であり、この傾向は2035年頃まで続くと予測しています。当院が所在する佐賀県中部医療圏の中では、佐賀大学医学部附属病院と一緒になって高度急性期の機能を担っています。

佐賀県内で初めての地域医療支援病院
-貴院での地域医療連携センターの業務内容についてお聞かせください。

今池氏)当館では、以前より地域連携に力を入れており、平成16年には佐賀県内で初めての地域医療支援病院として認定を受けました。地域医療に関する業務は、内容に応じて地域医療連携センター、一般相談支援センター、がん相談支援センターに分かれており、地域医療連携室は、医師1名、看護師3名、事務員8名で運営しています。主な業務内容は、紹介患者の受付登録、紹介・逆紹介率の管理、ID-Linkの運用、地域連携パスの窓口業務などです。

接遇強化により患者さんやそのご家族から信頼を得る
-地域住民に信頼される秘訣について教えてください。

今池氏)医療コミュニケーションと称した接遇改善の取り組みを行っています。医療機関として、質の高い医療を提供するということはもちろんなのですが、それだけでは患者さんやそのご家族などと良好な関係を築くことはできません。定期的に医療コミュニケーションに関する研修を行うことによって、接遇の改善に取り組んでいます。

-接遇に関する評価はどのような形で行っているのですか?

今池氏)接遇のプロの方に病院をラウンドしてもらい、改善すべき点をお伺いしています。また、電話応対に関するチェックも実施頂いており、そういった取り組みの中で受けた指摘を病院全体で共有するようにしています。

-患者さんの意見に耳を傾けるような取り組みはされているのですか?

園田氏)館内に意見箱を設置し、患者さんやそのご家族などの声に耳を傾ける取り組みを実施しています。頂いたご意見には、しっかりと届いていますという想いを込めて、返事を記入した上で院内の目立つ場所に掲示しています。これからも、意見箱に寄せられる様々な意見に耳を傾けることで、より良い病院にしていきたいと考えています。その他では、患者さんに対するアンケ―ト調査も定期的に実施しております。

-接遇に対する意識がとても高い病院なのですね。

園田氏)当館のスタッフには、ポケットマニュアルと呼ばれる持ち歩き可能なマニュアルが配布されています。マニュアルには、当院の理念や診療方針など、業務にあたる上で重要な情報が記載されています。その中に、「接遇」に関する記載もありますので、当館全体において接遇への意識は高いと思います。

-その他で何か地域住民向けに行っている取り組みはありますか?

今池氏)地域医療支援病院としての役割を果たすため、県民公開講座を実施しています。今年度からは当館のスタッフが地域の公民館に出張し、健康や疾患についての講演を行う取り組みも始めています。

システムを活用することでスムーズな情報共有を実施
-地域の先生方と良い関係を築く方法について教えてください。

長友氏)地域の先生方を招いた懇談会等を開催しているほか、佐賀県全域で運用されている地域医療連携ネットワークサービス「ID-Link」を積極的に活用しています。

-ID-Linkの概要について教えてください。

長友氏)複数の医療機関で診療情報を共有できるネットワークサービスです。同意を得られた患者さんについて、当館で入力した診断・診療情報がリアルタイムで共有される仕組みになっているため、紹介元の先生は返書が届く前に患者さんの情報を確認することができます。

-システムを運用する上で意識していることを教えてください。

長友氏)当館では、検査や処方の履歴だけではなく、医師や看護師などによるカルテ記載も公開するようにしています。紹介元の先生は紹介した患者さんがどうなっているのかを心配していると思いますので、なるべく多くの情報を提供することを心掛けています。

情報管理により連携室の業務を効率化
-その他で、地域の先生方と良い関係を築くためにやっていることはありますか?

田中氏)長期に渡って取り組んできたことの中に、返書管理の仕組み作りがあります。取り組みを始めた当初は、地域医療連携センターのスタッフが手作業で確認を行い、記入をしていない先生にお願いをして回っていたのですが、なかなか浸透させることができず、大きな負担になっていました。最近になって、返書管理のシステムを導入してからは、それらの業務が効率的に運用できるようになりました。

-返書管理のシステムを導入することによるメリットについて教えてください。

田中氏)それぞれの先生が、自分が返書を書いたのかどうかが分かりやすくなったというメリットがあります。また、管理を行う側である地域医療連携センターも、どの先生が書いていないのかを一目で分かるようになったため、確認にかかる負担を軽減することができました。

-先生が返書を書いていなかった場合はどのような働きかけを行うのですか?

田中氏)返書管理システムの運用ルールに、何日間返書がなければ働きかけを行うという決まりがあるため、そのお知らせに行くような感覚で働きかけを行っています。地域医療連携センターのスタッフによっては、先生に働きかけを行うことを負担に感じることもあるかと思いますので、そういったことにも配慮したルール作りを行っています。

逆紹介を増やすことが紹介数の増加に繋がる
-紹介数を増やすために行っている取り組みはありますか?

田中氏)今回、紹介数が増えていることを取り上げて頂くということで色々と考えていたのですが、紹介数を増やすという目的で何かに取り組んだことはありません。ただ、先程お話させて頂いた返書管理も含め、逆紹介を増やすという取り組みは意識的に行っていましたので、そういったことが紹介数の増加に繋がっているのかもしれません。

-その他にも逆紹介を増やすための取り組みをされているのですか?

田中氏)地域の医療機関情報をデータベース化していく取り組みを進めています。具体的には、どういった機能をもっている病院なのかという情報や、空き病床などの状況が見られる仕組みを構築しています。

-空き病床の更新はどのような形で行っているのですか?

田中氏)空き病床の更新作業は各医療機関にお願いしています。一定の負担をかけてしまう形にはなりますが、逆紹介先の施設を探す際に更新した順番で表示される仕組みになっているため、更新頻度を高めるほど逆紹介を受けやすい形になっています。

挨拶周りの中で得た情報から新しい施策を実施
-その他で、利便性向上のために行っている取り組みはありますか?

園田氏)最近になって、インターネット上から利用できる紹介患者さんの事前予約制度を開始しました。これは、地域の先生から頂いた「電話やFAXの手続きが面倒」というご意見や、「紹介した患者が待ち時間に不満を持っていた」などのご指摘を受けて開始したものです。現在では、新患紹介の2割程度、事前予約の半数程度がこのサービスを利用しています。

-地域への挨拶周りも積極的に行っているのですね。

園田氏)挨拶周りを通して顔の見える連携ができるようになると、お互いに言いたいことが言い合える関係を築くことができますので、とても重要だと考えています。病院にいるだけでは気付けないこともあるので、これからも取り組んでいきたいと考えています。

専門機関として、
かかりつけ医の普及・啓蒙活動が課題
-さきほど、言いたいことを言い合える関係という言葉が出てきました。
地域の方にお伝えしたいことがあればお聞かせください。

田中氏)これまでも取り組んできた内容ですが、かかりつけ医の普及・啓蒙活動をしていきたいと考えています。地域連携・機能分化の考え方は、院内に掲示しておりますし、様々な場面でお伝えしています。それでも、未だに患者さんから「ずっと好生館で診て欲しい」と言われることがあります。ありがたいことではありますが、丁寧に説明していきたいと思います。

佐藤氏)かかりつけ医の考え方はだいぶ普及している印象がありますが、普段はかかりつけ医を受診している患者さんも、いつもとは違う症状、例えば、熱が出たという理由で当館にくるケースがあります。生命に危険が及んでいる患者さんに素早く対応する体制を整えるためには、そういった患者さんを地域で診てもらう必要がありますので、地域の先生方と協力しながら進めていきたいと考えています。

-そういった課題を解決するために行っていることについて教えてください。

園田氏)連携先の医療機関と協力し、各医療機関がどういった機能を持っている病院・診療所であるのかを紹介するパンフレットを作成しています。現在は取り組みを始めた段階なので、約60施設分しか作成できていませんが、こういった取り組みを通して、患者さんが安心して地域の医療機関を受診できる環境を整えていきたいです。

患者さんやそのご家族と向き合うために
新たなセンターを設立
-その他で、何か発信したい情報があれば教えてください。

今池氏)平成28年4月に、入院から転院・在宅までを包括的に支えていく患者・家族総合支援センターを設立しました。これまでと同様、患者さんやそのご家族に耳を傾けながらの取り組みを進めていきます。

-本日は貴重なお話をありがとうございました。

病院概要

【施設名】
佐賀県医療センター好生館
【所在地】
佐賀市嘉瀬町大字中原400
【URL】
http://www.koseikan.jp/

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