2016年10月13日
平成26年に成立した医療介護総合確保推進法により、
各都道府県は地域医療構想を策定することが義務付けられています。
地域医療構想とは、2025年の医療需要と病床の必要量を推計し、
目指すべき医療提供体制を実現するための施策を定めるもので、
地域医療構想調整会議において各関係者間での協議が行われます。
そこで、地域医療構想をまとめる上で重要な指標となる、
医療需要の推計方法について調べてみると、
地域医療構想ガイドラインで以下のように定義されていました。
【2025年の医療需要推計方法】
2013年の性年齢階級別の入院受療率
×2025年の性年齢階級別推計人口
各指標について詳しく見ると、
性年齢階級別の推計人口数は、国立社会保障・人口問題研究所が公表している、
日本の地域別将来推計人口(中位推計)を利用することになっています。
以下の図は、2002年公表の2010年の人口推計(推計値)と、
2012年公表の2010年の人口数(実績値)をまとめたものです。
これを見ると、推計値と実績値の差がほとんどないことが分かります。
もう一つの指標である性年齢階級別の入院受療率に関しては、
高度急性期~回復期機能についてはNDBのレセプトデータ及びDPCデータで、
慢性期機能については地域差の縮小目標を設定しそれぞれを推計するとなっています。
これらのデータは一般に公開されていないため利用することができませんが、
厚生労働省が公表している入院受療率のデータ(患者調査)を用いることで、
地域医療構想で決められたルールに近い形での推計を実施することはできます。
下のグラフは、2002年の患者調査で公表された年齢別の入院受療率と、
2011年の患者調査結果を比較し指数化したものです(2002年の結果=100と設定)。
ご覧頂くと、全ての年齢階級で大幅に受療率が落ちていることが分かります。
入院受療率が低下した要因については、
医療技術の進歩、医療制度改革、公衆衛生の改善、生活習慣の変化など色々と考えられますが、
性年齢階級別の入院受療率は年々減少傾向にあるようです。
参考指標として、2002年時点で公表されていた性・年齢階級別入院受療率と、
同じく2002年の時点で公表されていた2010年の性年齢階級別推計人口を用いて、
2000年から2010年にかけての入院推計患者数を指数化しました。
地域医療構想ガイドラインに沿って推計を行うと、
2000年から2010年にかけての10年間で、
入院患者数は22%増加するという推計になりました。
一方で、厚生労働省が2002年に行った患者調査の結果と、
2011年に行った患者調査の結果を比較すると、
実測値については推計と真逆の8%減少となっています。
これらの結果をまとめると、将来の人口推計はかなり精度が高いものの、
入院受療率は経年的に減少していく傾向にあるため、
ある時点の受療率を切り取った将来推計では過剰推計になる危険性がありそうです。
もちろん、受療率の低下傾向が今後も続く保証はありませんが、
過剰推計を基に病院運営の方向性を決めることは将来の不採算事業を生む可能性があるため、
地域医療構想に用いるデータの取扱いには一定の注意が必要なようです。