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在院日数を延ばして稼働を維持する効果について

2020年6月19日

1.入院件数が減ると在院日数は伸びる

まずは、2017年から2018年の退院患者調査データを用いて、
同期間中に病床数や病棟構成を変更していないDPC病院における、
入院件数と在院日数の増減を比較した図をご紹介します。
ご覧の通り、2つの指標は逆相関の関係になっていることが分かります。

入院件数と入院日数3

2.平均在院日数が延びる原因

平均在院日数が延伸するパターンには、
重症者の増加など患者構成に変化があった場合と、
それ以外のケースとが考えられます。

下の図は、入院件数が減って平均在院日数が延びていた病院において、
平均在院日数が延びた要因別の影響度を表したものです。
これを見ると、水色の病院は患者構成の変化による影響を受けていますが、
灰色の病院は影響を受けていないことが分かります。

在院日数が伸びた要因3

3.稼働の維持を目的とした延伸

患者構成の変化以外で平均在院日数が延びた理由を推測すると、
稼働を落とさないために退院日を引き延ばしているケースが考えられます。

下の図をご覧いただくと分かる通り、
2017年から2018年にかけて入院件数が減少した病院の28%は、
延べ患者数(入院件数×平均在院日数で計算)が増加しています。

在院日数が伸びて稼働が像

病院運営にかかる費用は、給与費や設備関係費など、
患者の増減に関わらず生じる固定費が多くを占めます。
空床の発生により費用だけを浪費する状況にしてしまうよりは、
在院日数を延ばして収益を得ようとする傾向にあるようです。

4.在院日数を延ばしても減収になるケース

在院日数を延ばしても減収になるケースの代表例は、
入院料を引き下げたり、加算を取り下げたりする必要が生じる状況です。
また、DPC病院では効率性係数の低下によって減収となる場合があります。

下の図は、効率性係数が高い病院と低い病院の収益を比較したものです。
股関節大腿近位骨折の診断群分類を用いて入院日数別の収益を試算すると、
前者は24日間で530,704円のDPC入院料(+効率性係数収益)になりますが、
後者は25日間(+1日)で529,310円(△1,394円)しか得られません。

股関節代替近位骨折2

5.在院日数を延ばすと増収になるケース

基本的に、減収となるケースで紹介した事例を除くと増収になります。
なお、さきほど股関節大腿近位骨折の診断群分類で試算したときは、
在院日数を延ばすより効率性係数を高めたほうが良い結果となりましたが、
診断群分類によっては在院日数を延ばした方が優位なケースもあります。

下の図は、効率性係数が最も高い病院(=0.3282)が入院期間Ⅱの最終日、
効率性係数が最も低い病院(=0)がその翌日に患者を退院させる前提で、
診断群分類別のDPC入院料(+効率性係数収益)を試算した結果です。
ご覧頂くと分かる通り、後者が優位なケースが4割強を占めています。

どっちが有利か2

さらに、全DPC病院における診断群類別の入院件数と、
効率性係数が高い病院と低い病院におけるDPC入院料の差を見てみると、
全国的に入院件数の多い診断群分類のほとんどは、
在院日数を延ばした方が優位になっていることが分かります。

入院件数別優位性3

これらの情報を踏まえると、入院件数が減少している病院において、
在院日数の延伸で収入を維持することは、経済合理性が高いといえます。

6.引き延ばしは「アリ」か「ナシ」か

今回は、在院日数を引き延ばす効果について取り上げました。
結論として、急場しのぎの経営対策としては「アリ」といえます。

しかし、中長期的な視点に立つと結論は「ナシ」です。
理由は、いずれ頭打ちになることが目に見えているからです。
下の図をみると分かる通り、入院延べ患者数は数年前から停滞しており、
稼働ベースでみると入院医療へのニーズは減少傾向にあります。

入院延べ患者数2

冒頭で示した通り、入院が増えている病院では在院日数が短縮しています。
1ベット当たりの収益性向上に伴い人員の追加や設備投資にも積極的で、
在院日数の引き延ばしに頼った病院との差を徐々に広げています。

在院日数の延伸は中長期的に病院のランクを落とすことに繋がります。
目標とする収入の確保が難しい状況になってしまった場合は、
収入の拡大・維持に固執することなく、収支の最適化を検討しましょう。


退院患者調査データの使い方 -その2-

2020年6月9日

1.前回のブログについて

退院患者調査データの使い方 -その1-では、
厚生労働省が公開している退院患者調査のデータを用いて、
地域の病院情報と、入院患者の経路情報を確認する方法をご紹介しました。
今回のブログでは、疾患別の入院情報を見ていく方法をお伝えします。

2.入院件数を確認する

退院患者調査の結果を使うと、病院別の入院件数を取得することができます。
下の図は、ある医療圏に所在する各病院の実績を並べたグラフです。
折れ線グラフで表現したシェアの累積値をみると、
入院件数が多い2割の病院が64.5%のシェアを占めているのが分かります。

入院件数シェア

3.入院件数の増減を確認する

退院患者調査は毎年実施されているため、
前年の実績を参照することで入院件数の増減を算出することもできます。

下の図は、横軸が入院件数、縦軸が入院件数の増減を表しています。
A病院をみると、医療圏で2番目に年間入院件数が多い病院である一方、
前年と比較した入院件数の増減をみると減少してることが分かります。

病院全体

4.疾患別の増減を確認する

退院患者調査では、疾患別の情報もみることができます。
前年に比べて患者数が減ってしまったA病院の疾病別実績をみると、
消化器系・循環器系・呼吸器系などは増えており、
神経系・筋骨格系・耳鼻咽喉系などは減少していることが分かります。

A病院疾患別実績

5.地域の動向を確認する

疾患別の患者数が減少するパターンはいくつかあります。
ここからは、A病院で年間入院件数が減少していた、
神経系疾患、耳鼻咽喉系疾患、その他疾患を取り上げます。

まず、神経系疾患では、2017年度に開業したB病院が、
2018年度に入院件数を2.3倍に拡大させたことが、
A病院の入院件数減少に繋がったと考えられます。

神経系疾患

次に、耳鼻咽喉科系疾患をみると、
多くの病院で入院件数が増加しているため、
神経系疾患とは異なる状況であると推測できます。

耳鼻咽喉科系疾患

最後に、その他の疾患をみると、
A病院に限らず入院件数が減少している状況のため、
地域全体の需要が下がっているように見受けられます。

その他の疾患

このように、地域全体の動向を確認してみると、
入院件数の減少要因は必ずしも同じではないことが分かります。

6.おわりに

今回のブログでは、入院件数が減っている病院において、
どの疾患の患者数が減少しているのかを特定した上で、
他病院の状況をみながら疾患毎の減少要因を推察する方法をお伝えしました。

ご紹介した内容は、当サイトの機能を使えば簡単な操作のみで実施できます。
無料の会員登録だけでご利用いただけるようにしておりますのでぜひご活用下さい。

上昇病院


【第2回】アンケートご協力のお願い

2020年6月4日

この度、上昇病院.com運営事務局では、
今後のサービス拡充を目的に簡単なアンケート(所要時間:3分)を実施しております。
ご利用者様からのご意見をもとに機能追加などを検討したく存じますので是非ご協力ください。

アンケート回答用URL:
https://forms.gle/iLG6WeGHgVzvtHdj8

アンケート


退院患者調査データの使い方 -その1-

2020年6月1日

1.退院患者調査について

厚生労働省は、2020年3月25日に、2018年度における退院患者調査の結果を公表しました。公開されたデータには、どの病院に、どの疾患の患者が、どれくらい入院していたのかなどが分かる情報(詳細は後述)が記載されています。

今回の調査は、約4,700病院が対象となっており、分析対象となった入院件数は1,162万件にのぼります。同年における医療費の動向調査をみると、全国の推計新規入院件数は1,572万件となっていることから、入院全体に占める74%の情報が退院患者調査から取得できることが分かります。

下の図をご覧いただくと分かる通り、調査対象となる病院の範囲は年々拡大しています。今回のブログでは、退院患者調査データを使った地域分析の方法をご紹介したいと思います。

入院件数_上昇病院

※公開先URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000049343.html

2.公開データの内容

退院患者調査のデータを使うと、自院の情報を他院と比較しながら見ていくことができます。

把握できる情報は大きく分けて3パターンあります。1つ目は入院患者がどこから来院したのか分かる「経路情報」、2つ目は入院患者が何の疾患で何日入院したのかが分かる「入院情報」、3つ目は入院患者の退院先や退院時の状態が分かる「退院情報」です。

また、これら3つの情報を分析していく上で欠かせないのが、病院が所在する都道府県や市町村、病棟機能毎の病床数などが分かる「病院情報」です。この4つの情報を組み合わせると、地域医療の実情をある程度つかむことができます。

退院患者調査

3.病院情報を比較する

まずは、病院情報について取り上げます。退院患者調査の結果が公開されているページにある「施設概要表」というファイルをダウンロードすると、病院が所在する都道府県や市町村を特定するための情報と、その病院がもつ病床機能毎の病床数などを把握できます。

下の図は、ある市町村番号を指定して抽出した5病院の情報をまとめたものです。病床数の多い順にみていくと、A病院はDPC病床・地域包括ケア病床・療養病床の3区分、B病院はDPC病棟・地域包括ケア病床の2区分、C病院はDPC病床だけで運営していることが分かります。

A病院・B病院・C病院はいずれも同じくらいの病床数ですが、この情報を参考にすると、地域内で担っている機能はそれぞれ異なると考えられます。

病床数

4.入院経路を比較する

次に、経路情報について取り上げます。退院患者調査では、入院患者がどこから、どのようにして来院したのかが分かる情報が記載されています。

A病院からE病院に入院した患者が入院前にいた場所をみてみると、A病院からD病院は家庭からの入院が8割以上を占めていますが、E病院は58%と低くなっていることが分かります。

また、A病院からD病院は病院・診療所からの転院より、介護・福祉施設からの入院が多いですが、E病院は病院・診療所からの転院のほうが多くなっています。5病院のうち、回復期リハビリテーション病床をもつ病院はE病院だけなので、A病院からD病院を退院した患者を受け入れるポストアキュート機能を担っている可能性が示唆されます。

病院別入院経路

 

次に、患者がどのような経路で入院したのかをみていくと、紹介あり入院数や予定外入院数はA病院がB病院を上回っていますが、救急車搬送数や救急医療入院数はB病院がA病院を上回っていることが分かります。これにより、A病院とB病院では、集患ルートに違いがあることが分かります。このように、病院情報と入院経路情報を組み合わせると、地域の医療機関が担う役割を客観的事実を元に推測していくことができます。

AB比較

今回は、退院患者調査データの使い方(前編)として、病院情報と入院経路情報について取り上げました。後編となる次回は、退院患者調査のメインとなる入院情報と、退院先情報についてご紹介させていただきますので、引き続きよろしくお願いいたします。


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