2020年1月15日
1.医療費が増えているのは高齢者が増加したから?
2018年度の概算医療費は過去最高となる43兆円を記録しました。
人口減少に伴い国民1人当たりの負担額も年間34万円に増加し、
今後も同様の傾向が続くことが予想されます。
医療費はなぜ増加を続けているのでしょうか。
一般的には団塊の世代が高齢者となったことなどが要因とされています。
確かに、50年前と現在の高齢者数を比べてみると、
65歳以上は3.63倍、75歳以上は8.76倍に増加していることが分かります。
2.国民医療費は高齢者増加率を大きく上回っている
高齢者が増えたことだけが医療費増加の要因だとすれば、
高齢者と医療費の増加率は同等になることが予想されます。
それでは、医療費の増加率を見てみましょう。
先ほどと同じく50年前と現在の医療費を調べてみると、
2018年の医療費は50年前と比べて23.7倍に増加していることが分かります。
同じ期間の高齢者増加率を数倍も上回っていることから、
医療費の増加にはその他の要因も関係していると考えられます。
3.皆保険導入と老人医療無料化が医療費増加に影響
戦後復興を遂げた日本では、
国民の3分の1が無保険状態にあることが問題視されるようになり、
1961年から国民皆保険制度が始まりました。
しかし、開始当初は収入のない高齢者の自己負担比率が5割であったことから、
社会・共産党系の議員が首長を務める自治体を中心に老人医療費の無料化が推進されるようになります。
当時、田中角栄首相が総裁を務めていた自民党はこのような取組に反対の立場でしたが、
地方選挙で劣勢になることが増えたことを受け、
1973年に国として老人医療の無料化を実施します。
この間の医療費の増加率を見ると、
老人医療無料化の翌年である1974年の医療費は前年比36%の増加率を記録しており、
1961年から1981年にかけて医療費は25倍以上に膨らんでいることが分かります。
4.政治が医療制度を変えると医療費は下がる
膨れ上がる国民医療費が前年実績を下回った年は過去に4回あります。
1回目の2000年は介護保険制度が新設された年で、
老人医療費が介護費に置き換わったことによるものです。つまり実質的には減少していません。
注目すべきは2回目の2002年、3回目の2006年で、
いずれも当時の小泉純一郎首相が診療報酬を引き下げた年です。
更に、2002年は70歳以上の医療費が定額制から定率制となり、
2006年は現役並み所得者の自己負担比率を3割に引き上げる改革も行われています。
このことは、高齢者が増える時代であっても、
制度改革によって医療費を削減することは可能であることを示しています。
(4回目の2016年は一部医薬品に特例拡大再算定を適用して医薬品費を削減したことが要因)
5.これから医療費が削減される可能性について
2002年と2006年の医療費削減は、
診療報酬のマイナス改定と国民負担の増加を同時に実施したことが原因でした。
それでは、当時と同じようなことがこれから起きる可能性はあるのでしょうか。
一連の改革を実行した小泉純一郎元首相は、
就任後の支持率が80%を超えるなど圧倒的な人気を背景に痛みを伴う改革を実行しました。
しかし、当時と比べると高齢者と医療従事者は大幅に増加しています。
政治を動かすためには選挙に勝たなければならないことを考えると、
急激な医療費抑制に向かっていくことはあまり現実的でないかもしれません。
一方、2020年の診療報酬改定はネットでマイナス0.46%となることが決まり、
2022年には75歳以上の自己負担比率が2割に引き上げられることが既定路線とされています。
政治的な意思決定の内容を事前に予測することは困難ですが、
こういったことの動向については今後もしっかりと注視していく必要がありそうです。