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集患活動が重要な理由と患者確保の方法論

2020年5月31日

1.これからの病院経営において集患が重要とされる理由

2009年から2018年にかけての入院医療の状況をみると、
新規入院件数は増加しているものの、入院日数は短縮していることが分かります。

2つの指標から算出される延べ患者数(受診延日数)は緩やかに減少しており、
これに伴い全国の病院数・病床数は減少を続けています。

過去と同じ入院件数を確保できたとしても、
入院日数の短縮により稼働が落ちてしまうことが、
これからの病院経営において集患が重要とされる理由です。

延べ患者数と病院数

病院数と病床数

2.集患活動により入院患者を確保する方法は大きく分けて2つある

自院の外来患者が入院医療を必要とする状況に対応するだけでは、
入院件数の大幅な増加は見込めません。
重要なのは、現時点で自院と繋がりのない患者を確保することです。

厚生労働省の公開データを用いて分析を行ったところ、
2016年から2017年にかけ入院件数が増加した病院の64.5%で救急車搬送数が増えており、
55.8%で他院から紹介を受けた患者の入院件数が増加していました。

救急搬送数と紹介数の両方が増えている病院の84.1%は病院全体の入院件数も伸びており、
集患のためには救急車の受け入れと他院からの紹介が重要であることが分かります。

入院経路2

3.救急車の受け入れを増やす秘訣は救急隊からの要請を断らないこと

救急搬送における医療機関の受入れ状況等実態調査によると、
2017年は救急搬送された重症患者の84.9%が初回の照会先医療機関に受け入れられており、
3回以内の照会で決まらないケースはわずか2.1%でした。

救急隊からの要請に対する医療機関の応需率は年々改善を続けており、
救急隊からの要請を断ることは限られた地域の医療需要を他院に奪われることを意味します。

理想的な対策としては受入体制の強化が挙げられますが、
難しい場合はどのような状況であれば受け入れ可能であるかといった情報を、
地元の救急隊に向けて発信することが重要です。

医療機関の件数

4.紹介患者の確保には営業活動の実施と逆紹介の推進が有効

厚生労働省が行っている受療行動調査によると、
入院患者が病院を選んだ理由として最も多い回答だったのが「医師による紹介」です。

救急患者を増やすためには人材確保と設備投資が要求されますが、
紹介患者の確保はそれほどコストをかけずに実施できます。

紹介数を増やすためには営業活動と逆紹介が重要です。
営業活動は相互補完関係になれることを説明する機会となり、
逆紹介は利益相反がないことを証明する方法になります。

病院を選んだ理由

5.集患活動の成功確率を高めるためには入院経路の把握が必要

集患活動の成功確率を高めるために補足しておきたいのが疾患毎の入院経路です。
患者が入院するまでの流れは、疾患によって大きく異なります。

例えば、子宮頸がんなどを中心とするMDC12の疾患では予定入院が中心となりますが、
ウィルス性・細菌性肺炎を中心とするMDC15は救急搬送との関連性が高い特徴があります。

下の図は疾患毎の入院件数増減と、
その値を入院経路別(予定入院・救急搬送入院)に分けた相関係数を示したものです。

入院件数の増減と相関の高い指標は疾患によって異なっていることが分かります。
ある診療科で上手くいった集患活動が、他診療科では機能しない可能性を留意する必要があります。

相関関係

6.自院の役割を明確にして集患コストを下げる意識も大事

今回、集患活動の重要性とその方法論についてまとめました。

こういった取組が機能しない病院では、
これから徐々に稼働が落ちていくことが予測されます。

一方、個々の病院が集患活動に力を注ぐことは、
患者獲得に必要なコストが増えることに繋がります。

地域の医療ニーズが一定である以上、
その中で競争原理が働くことは好ましくありません。

地域の医療資源を効率的に活用していくためにも、
他の医療機関との協調によって自院の役割を明確にし、
集患コストを下げていく意識が重要です。


地域包括ケア病棟で増収した急性期病院の経営が危ない理由

2020年5月30日

1.遂に診療報酬改定のターゲットとなった地域包括ケア病棟

2020年度の診療報酬改定によって、
地域包括ケア病棟入院料に関する要件の見直しが行われました。

2014年度に新設され、2016年度年には手術・麻酔が包括外となり、
2018年度には上限点数が上がるなどして拡大を続け、
届出病院の6割以上が増収増益を達成したとされる同入院料は転換期を迎えています。

地域包括ケア病棟入院料

2.地域包括ケア病棟の起源は亜急性期入院医療管理料

地域包括ケア病棟の歴史を振り返ると、
2004年に創設された亜急性期入院医療管理料の創設までさかのぼります。

点数や要件は時代の経過と共に変化していますが、
急性期から慢性期への移行、慢性疾患が増悪した患者に対して、
在宅復帰支援を行うといった目的は現在も引き継がれています。

亜急性期入院料

3.亜急性期入院医療管理料時代から存在した2つの指摘

実は、亜急性期医療入院管理料時代の2011~2012年にかけて、
2020年度診療報酬改定に関連する指摘が行われています。

1点目は亜急性期入院管理料が、
自院の急性期患者を受け入れるポストアキュート機能に偏っているという指摘で、
2点目は亜急性期入院管理料を算定するDPC病院は、
DPC点数が亜急性期入院管理料を下回るタイミングで転棟するケースが多いという指摘です。

しかし、当時は非DPC病院に対するデータ提出が要件化されておらず、
情報が不足していることを理由に実態把握の必要性が主張されるにとどまっていました。

ポストアキュート中心

亜急性からの転棟

4.データ提出の要件化によって裏付けられた指摘の正確性

2014年に新設された地域包括ケア病棟入院料では、
データ提出加算の届け出が義務化されました。

その後、届出病院数の増加と共に多くのデータが集まったことにより、
亜急性期入院医療管理時代に指摘されていた内容が改めて問題視されました。

2020年度の診療報酬改定に向けた議論のなかで、
転棟後の点数見直しの根拠として示された資料は、
2011年に提出された内容とほとんど変わらないものでした。

DPC対象病棟からの転棟2020

5.地域包括ケア病棟で増収した急性期病院の経営が危ない

2020年度の診療報酬改定により、
DPC病棟から地域包括ケア病棟に転棟した際の点数設定は、
期間Ⅱの最終日までDPC点数を引き継ぐことになりました。

現時点で影響を受けている病院も少なくないと思いますが、恐ろしいのは次期改定です。

上記の内容で次期改定が行われた場合、
入院期間Ⅱを超えてから地域包括ケア病棟入院料を算定し始めた患者の点数が、
それ以前の点数よりも高くなることが予想されます。

この状況が明るみになると、自院からの転棟に対する要件の更なる厳格化や、
入院料自体の引き下げが行われる可能性があります。

こういったリスクに備えるためにも、診療報酬改定の直前だけではなく、
定期的な情報収集により改定の方向性を先読みすることを心掛けましょう。


地域の医療需要が病院経営に与える影響

2020年5月29日

1.全国の入院患者数は増加傾向にある

医療費の動向調査によると、
推計新規入院患者数は2009年度から10年連続で増加しています。

2018年度の入院件数は10年前に比べ16%増加しており、
医療費が増加を続ける要因の1つになっています。

入院件数

 2.都道府県別にみると減少しているケースも

 

退院患者調査の結果を見ると、
既に入院件数が減少している都道府県もあります。

2016年と2017年における病院の入院件数を都道府県別に集計すると、
岩手、秋田、鳥取の3県は減少していることが分かります。

都道府県別

3.入院患者が減少している都道府県の状況

2016年から2017年にかけて入院件数が減少した鳥取県には、
3つの医療圏(中部・西部・東部)があります。

このうち、西部・東部医療圏は入院件数が減っているものの、
中部医療圏では増加していることが分かります。

医療県別

4.医療圏の状況と医療機関別の状況には差がある

下の図は、入院件数が増加している中部医療圏と、
減少している西部・東部医療圏に所在する医療機関別の状況です。

中部医療圏(青)全体では入院件数が増加していたにも関わらず、
医療機関単位でみると8病院中5病院が前年実績を下回っています。

反対に、入院件数が減少している西部(橙)・東部医療圏(赤)にも、
入院件数の増加している病院が存在していることが分かります。

医療機関別

5.医療圏の需要増減が個々の病院に与える影響

同様の分析を全国で実施したところ、
2016年から2017年にかけて入院件数が増加した医療圏の割合は65.3%でした。

しかし、入院件数が増加している医療圏に所在する医療機関のうち、
40.4%の病院では入院件数が減少しています。

このことは、各医療圏における入院需要の変化が、
当該医療圏に所在する病院の入院件数にそれほど影響していないことを示しています。

個々の影響

6.地域医療調整会議が重要な理由

今回のブログでは、地域の需要動向が、
各病院の実績に直結するケースが少ないことを説明しました。

医療需要の将来推計は、
周辺病院の動向を知ることによって初めて価値が生まれます。

厚生労働省の地域医療構想に関するワーキンググループが、
2019年9月26日に公開した病院再編リストも、
作成の目的は「調整会議における議論の活性化」とされています。

将来に向けた投資の効果を見誤るリスクを避けるためにも、
地域医療構想調整会議におけるオープンな議論の活性化が期待されます。


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